DX成功への「人のナビゲーションマップ」:ステップ4 – 変革影響分析(Change Impact Assessment)

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DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する中で、「変革が現場の『人』にどのような影響を与えるか分からず、不安を感じている」「テクノロジー導入後に思わぬ混乱が生じ、プロジェクトが停滞してしまうのではないか」といったお悩みはありませんか?

特に、技術先行でDXが進み、現場の意見が置き去りにされたり、タイトなスケジュールの中で「人」への影響を考慮する余裕がないといった状況で、このような不安を感じやすいのではないでしょうか。

~DX Change Lab 7ステップモデル解説シリーズ(4)~

変革がもたらす影響を事前に把握することは、変革支援に重要なステップと言えるでしょう。なぜなら、事前に影響を把握することで、手戻りを防ぎ、現場の混乱を最小限に抑え、社員のエンゲージメントを維持しながらスムーズな変革を実現できるからです。

ある電子メーカーでは、デジタル自動化と組織再編の同時進行が社員の疲弊と離職を招き、また、ある消費財メーカーでは、グローバルシステム導入後の煩雑なデータ入力や新しい操作への対応が業務負荷増大を招き、人員追加を余儀なくさせました。これらは、変革が「人」に与える影響を十分に予測できていなかった事例です。

本記事では、「人」を中心とした変革影響分析の重要性とその進め方について解説します。(また、変革影響分析は英語であれば、Change Impact Assessmentということになります。日本ではまだなじみがないため、本記事では「変革影響分析」という名称で解説させていただきます。)

DX成功への道標:「人」中心の変革影響分析とは

DX成功には、テクノロジー導入だけでなく、「人」の変化への対応が不可欠です。 変革による影響を事前に可視化することで、プロジェクトのリスクを低減し、成功への道を拓きます。まるで、目的地までの「人のナビゲーションマップ」のように、変革が「人」に与える影響を詳細に示し、進むべき道筋を明らかにするのです。

変革影響分析に基づいて対策を講じることで、現場の混乱を防ぎ、変革への抵抗を最小限に抑えることができます。また、効果的なコミュニケーション戦略、トレーニング計画、サポート体制の構築も、的確な分析があってこそ実現します。

変革影響分析はいつ行うべきか?

プロジェクトの進行に合わせて、その目的と粒度を変えながら段階的に実施することが重要です。

計画段階(初期):ハイレベルな影響範囲の把握

プロジェクト初期には、組織全体または主要部門への大まかな影響の種類と度合いを評価します。これは、チェンジマネジメントの進め方を設計する上で重要です。この段階で、「人のナビゲーションマップ」の大まかな全体像を描きます。

要件定義後:詳細な影響の種類と影響度合の分析

具体的な導入機能や業務フロー確定後には、影響を受ける関係者、人数、影響の質を分析し、詳細な影響度合いを評価します。これは、具体的な対応策のアクション計画の基礎となります。「人のナビゲーションマップ」を詳細化します。

プロジェクト進行中:継続的なアップデート

状況の変化やフィードバックに基づき、影響を再評価し、必要に応じて対策を見直します。「人のナビゲーションマップ」も常に最新情報に更新します。

変革影響分析における役割分担 – ユーザー部門が主体

変革影響分析を効果的に進めるためには、明確な役割分担と部門間の緊密な連携が不可欠です。

  • チェンジマネジメントチーム:プロセス設計、テンプレート提供、進め方指導、ヒートマップ作成支援。
  • ユーザー部門:現場の業務を最も深く理解しているユーザー部門は、変革影響分析を実施する中心的な役割を担います。具体的な影響の種類、影響を受けるチームと人数、影響度合いを特定。
  • 関連部門(情報システム部、人事部など):多角的な視点からの分析協力。

変革によって「人」に何が影響するのか? – 影響分析の側面

影響分析は、以下の三つの軸に沿って行われます。

  • 影響の種類
  • 影響を受ける関係者
  • 影響度合

影響の種類

変革が「人」に与える影響は多岐にわたります。主要な4つの側面についてご紹介します。

a. 業務プロセスへの影響:
業務の流れ、手順、タスクの変更、新たな業務の発生などなどが、日々の業務遂行にどのような変化をもたらすのかを分析します。また、移行期間中・導入後における従業員のワークロードへの影響も評価。

b. 利用ツール・データへの影響:
使用ツールの変化、新ツールの導入、データ移行、入力項目の変更など。どのツールを習得する必要があるかを分析します。

c. 人のスキルへの影響:
ツールの使い方以外に、どのような知識やスキルを習得する必要があるのかを評価します。

変革によって、社員の価値観、行動様式といったマインドセットの変化について、記事「ステップ7: 変革レディースの測定」をお読みください。Cultureに関するレディースを解説しています。

d. 組織構造などへの影響:
チーム編成の変更、責任範囲の再定義、報告ラインの変更、業績評価の方法など、組織体制や個々の役割にどのような変化が生じるかを分析します。企業文化や従業員間の関係性など、組織のソフトな側面への影響も考慮します。

影響の範囲:

この変革はどの関係者に対して影響を与えるかを、以下の視点から分析します。

  • プロジェクトに関わっている推進メンバーにはどのような負荷がかかっているか
  • ユーザー部門(主にデジタルソリューション導入の対象者)
  • その他:社外の他の関係者(顧客、投資家)に影響はないか

影響の度合:

影響を受けるチームのその人数、そして業務変更の範囲(一部変更か、ほぼ全業務に及ぶ変更か)を考慮して影響度合いを評価します。特に、マインドセットの変化が求められる場合は複雑性が増すため、より丁寧なチェンジマネジメント支援設計が必要です。

実践!詳細変革影響分析の具体的な進め方

前述の通り、要件定義後には詳細な変革影響分析を行う必要があり、以下はそのステップを解説します。

ステップa: 変革影響分析アプローチの設定

このステップでは、まず変革影響分析を通じてどのような目的を達成し、どの対象部門に対して実施し、最終的どのような成果物を作成するかいったアプローチの設計を行います。

対象部門が決定したら、チェンジマネジメントチームはアサインされたユーザー部門の代表的な社員(Subject Matter Expert、SME)に変革影響分析の進め方およびテンプレートについて説明します。SMEは、対象部門の業務に詳しい社員であり、作成における重要な情報提供者となります。

注: 前述の通り、アセスメントにおける役割分担を明確にする必要があります。特に大規模なプロジェクトの場合、数多くの部門でこの変革影響分析を実施する必要があります。その場合、チェンジマネジメントチームはガイドラインを提供しますが、影響分析に関する情報収集を主体的に行うのはSMEとなります。

ステップb: 変革影響分析を実施

ユーザー部門のSMEとIT部門は要件について定義できたら、そのBeforeとAfterの比較を行い、変革による影響をテンプレートに基づき速やかに記録することを推奨します。

テンプレートは通常、変更前の状況、変更後の状況、変更による影響、関係者(人数)、変更の種類、影響度合、対応策の検討という項目を備えており、ワークショップ形式を通じて記録することを推奨します。一つの変更点が複数の種類の影響を引き起こす可能性があるため、影響ごとに対応策を検討すると良いでしょう。今後の対応策検討のためにも、可能な限り丁寧に詳細に記録しましょう。

変革影響分析では、「どの程度の粒度」で「どのようなカテゴリー」で整理するかが、漏れを防ぐ鍵となります。例えば、SAP導入プロジェクトでは、BPML(Business Process Model List:業務プロセスモデル一覧)に基づいて影響範囲を整理するのが一般的です。

ステップc: ヒートマップの作成:

最後に、影響分析の結果に基づき、部門ごとに、影響の種類ごとの影響度合いを色分けしたヒートマップを作成します。これにより、どの部署がどの種類の影響について最も支援を必要としているのかという共通認識を持つことができ、変更支援の優先順位を決定しやすくなります。

解説: このヒートマップから、例えば全社的にデータドリブンな意思決定のためのマインドセットとスキル向上が重要であることが分かります。その上で、営業部とカスタマーサポート部では、特に業務プロセスの変更による影響が大きいことが明確に示されています。また、ツール研修も共通して重要な対応策となるでしょう。

ステップd: 対応策のアクションを計画しましょう

影響の種類ごとに対応策を検討し、以下の形式でアクションを記録しましょう。 対応する影響項目(番号)、対応策のアクション、対象者、アクションオーナー、Due期日 これらの項目をまとめ、アクションの種類ごとに数を集計して、進捗を追跡しましょう。

影響分析の結果に基づき、以下の対応が考えられます。

  • コミュニケーション戦略: 誰に、何を、どのように伝えるべきかを明確化します。
    • 例: 各部門のキーパーソンに対し、「変革影響分析(Change Impact Assessment)」の結果を共有し、懸念点や疑問点に個別に対応することで不安を軽減します。
  • 研修計画: 誰に、どのような研修を提供する必要があるかを特定します。
    • 例: 「変革影響分析(Change Impact Assessment)」で明らかになったスキルギャップに基づき、新しいツールの操作研修、データ分析の基礎研修、顧客中心思考を醸成するためのワークショップなどを実施します。
  • ポリシー・制度の見直し: 新しい行動・マインドセットを促進するための制度・ポリシーを検討します。
    • 例: 新しい働き方や評価基準を反映した人事制度への改訂などを検討します。
  • その他: 変革の過渡期に必要なリソースを検討します。
    • 例: 一時的な業務負荷増大に対応するための追加人員の配置、外部専門家によるアドバイザリーサービスの導入、FAQサイトの開設による問い合わせ対応の効率化などを検討します。

まとめ

変革影響分析は、DX成功に不可欠な「人のナビゲーションマップ」です。 「人」への影響を事前に分析・可視化することが重要です。

変革影響分析(Change Impact Assessment)の影響(Impact)という言葉は、時に受動的、消極的な印象を与えるかもしれません。しかし、本質的には、変革という変化の波に合わせて、組織や個人のあり方を前向きに分析し、必要な変化に主体的に対応していくための重要なプロセスです。

あなたが現在推進しているDXプロジェクトでは、「人」にどのような種類の変化が起こりそうでしょうか? さあ、変革影響分析を作成し、活用することで、あなたの組織のDXを、テクノロジーだけでなく「人」への深い理解と配慮をもって、より確実な成功へと導きましょう。

プロフィール
Hiro

著者: Hiro|DX Change Lab
日本企業のDX推進のチェンジマネジメントの専門家。元人事・経営コンサルタントとして大手企業の変革を支援。現在は事業会社のDXのチェンジマネジメントをリード。
会計士からコンサルタントへの転身、そしてデジタル領域での苦労経験から、DX担当者の不安に共感。自身の経験に基づき、現場視点でDXをシンプルに進めるヒントや奮闘をブログ「DX Change Lab」で発信中。変革の一助となれば幸いです。

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