DX推進で、こんな悩みに直面していませんか?
- スポンサーが「承認」だけで、実行には関わらない
- 経営層がプロジェクト全体を理解していない
- 部門リーダーたちの足並みが揃わない
DX変革を前に進めるには、リーダーたちの「本気の関与」が不可欠です。本記事では、DX変革を推進するために、スポンサーおよびリーダー陣にどう“火をつける”か(=リーダーシップ・エンジンを点火するか)、そして推進者であるあなたがどう支援すべきかを実践的に解説します。
変革の成否は、リーダー次第
私たちが過去のDXプロジェクトから学んだ最大の教訓は──
「変革はテクノロジー主導ではなく、人主導」 ということです。
そして、その「人」を導くのは他でもない、リーダーたちです。
単なる承認者ではなく、変革のビジョンを掲げ、行動で示し、組織を巻き込む「推進者」であるべき存在です。
本記事では、「DX Change Lab 7ステップモデル」のステップ2「スポンサーとリーダー陣を動かせ」を深掘りし、あなたのDX変革を力強く前進させるヒントをお届けします。
それぞれの役割を明確にする
DX変革はチームプレーです。誰が、どこで、どう力を発揮すべきか。以下に主な関係者とその役割を整理します。

スポンサー・リーダー陣:変革の方向と資源を担う「上層エンジン」
- スポンサー(経営層):DXプロジェクトの最終責任者。意思決定と支援獲得の中心。
- リーダー陣(部門責任者など):現場に最も近い経営者たち。横断的協力がカギ。
- 主な責任:変革の方向性提示、必要な資源・人材の確保、意思決定の支援。

日本企業では「スポンサー」という役割が曖昧なこともありますが、複雑なDXやグローバルプロジェクトでは、明確なスポンサーシップの確立が成功の鍵となります。
導入チーム(DX推進者):変革の設計と調整を担う「中間エンジン」
- 役割:変革の設計、プロジェクト推進、ステークホルダー調整。
- 対象者:社内のDX推進部門、PMO、IT部門、経営企画、外部コンサルタントなど。

あなたがこの立場にいるなら、「全部を自分で背負う必要はありません」。でも、リーダーを“動かす”のは、あなたの働きかけ次第です。
チェンジチャンピオン:現場を巻き込む「現場エンジン」
- 役割:現場の変革の旗振り役。現場の声と導入チームをつなぐ橋渡し。
- 対象者:現場の管理職、キーパーソン、次世代リーダーなど。
リーダーの“本気”が変革を推進するエンジンになる

リーダーたちが以下の3つを一貫させることで、組織は変革に前向きに動き出します。
- 言うこと:変革の必要性を明確に語る
- すること:自ら変化を体現し、行動で示す
- 報いること:変革に貢献した行動を評価する
この3つが揃えば、組織は動きます。逆に、いずれかが欠けると、現場は戸惑い、プロジェクトは失速します。

ではこれは、変革プロジェクトにおいてはどういうことを意味しているのでしょうか?

それは、リーダーが常に言葉と行動で一貫して変革をサポートしなければならないということです。そして、導入チーム(DX推進をサポートするチーム)にとっては、リーダーが変革に対して一貫したサポートを表明し続けてもらうようにサポートすることが重要なのです。
よくある落とし穴:導入チームがリーダーの仕事を代行してしまう
DX推進チームが、ついリーダーの役割まで肩代わりしてしまうケースは多く見られます。
例えば、スポンサーの代わりに現場を説得するなど。
👉 これは本来の役割分担を崩し、変革の持続力を弱めてしまいます。
導入チームは「支援者」であり、「主役」はリーダーたちです。だからこそ、導入チームの役割は「リーダーが動き続けられるよう、継続的に燃料を補給すること」なのです。

リーダーシップの欠如が招く「変革失速」
リーダーシップギャップとは
変革の推進エンジンであるリーダーシップにわずかな綻びが生じただけでも、組織全体の変革は失速し、最悪の場合、完全に停止してしまいます。
特に、リーダーシップギャップと呼ばれる状態は、変革の成功を大きく阻害する要因となります。
変革リーダーシップにおいて、最も重要なのは変革支援の“伝達”です。トップのリーダーが変革への強いコミットメントを表明し、それが直属のチームへと浸透し、さらにそのチームから各メンバーへと波及していく必要があります。

なぜなら、従業員にとって最も影響力があるのは、日々の業務で直接関わる直属の上司との関係だからです。上司が変革を支持し、その必要性を理解していれば、部下も変革を受け入れやすくなります。
スポンサーの役割は、自身の直属チームだけでなく、同僚である他のリーダーたち(ピアリーダー)も巻き込み、組織全体で一貫したメッセージを発信することにあります。
リーダーシップの縦と横の連携があってこそ、組織全体に変革の推進力が生まれるのです。
リーダーシップギャップの危険性
- 階層間の断絶:情報伝達の滞りと誤解の発生
トップ層のリーダーは変革の必要性を理解していても、中間管理層のリーダーがその重要性を認識していなかったり、情報が現場に正しく伝わらず、混乱や誤解が生じます。 - リーダーの温度差:変革への抵抗と不協力
一部のリーダーが変革に消極的であったり、自身の部門の現状維持を優先したりする場合、組織全体の変革への足並みが乱れ、協力体制が築けません。
過去の失敗事例を振り返ると、リーダーシップギャップがプロジェクトをいかに破綻させてきたかが明確にわかります。一部のリーダーの非協力が、全体の士気を下げ、最終的にプロジェクトの目標達成を阻害するケースは少なくありません。
リーダーシップ・エンジン」を点火するための実践的アプローチ
スポンサーおよびリーダー陣を効果的にサポートし、変革のエンジンを力強く点火させるためには、現場に即した、具体的かつ継続的なアプローチが必要です。ここでは、その第一歩となる重要な2つのステップをご紹介します。
ステップa:スポンサーシップマップの作成:変革のキーパーソンを可視化する
変革に関わる主要なリーダーやステークホルダーを組織図上にマッピングし、それぞれの役割、影響力、変革へのスタンスを整理・可視化します。これにより、誰をどのように巻き込むかの戦略が立てやすくなり、潜在的なボトルネックも早期に発見できます。
以下のプロセスに沿って進めるのが効果的です:
- 組織図の準備:変革プロジェクトに直接・間接的に関わる部門とそのリーダーを含む、最新の組織図を準備します。
- キーパーソンの特定:各部門の責任者や影響力の大きい人物(部門長、マネージャー、現場のキーパーソンなど)を洗い出し、マップ上に配置します。
- 個別ヒアリング:対象リーダーとの1on1面談を通じて、変革に対する認識・期待・懸念・影響力などを丁寧にヒアリングします。対話の中でリーダーの本音を引き出すことがポイントです。
- 評価と色分け:各リーダーの影響力、変革への関与度、現時点でのスタンスを評価し、マップ上に色分けやアイコンで表現します(例:積極支援=青、様子見=黄、抵抗あり=赤)。
- 関係性の可視化:リーダー間の上下関係、非公式な影響関係、報告ラインなども線で結び、情報伝達や意思決定の流れを可視化します。
- 戦略の策定:完成したマップをもとに、スポンサーとともに「誰にいつ、どう関与してもらうか」のリーダーシップ強化戦略を議論・設計します。この段階で、巻き込む順番やメッセージの出し分けも検討しましょう。
このように、スポンサーシップマップは「絵に描いた餅」ではなく、変革推進の実行計画を支える“作戦図”として活用されます。定期的なアップデートを行い、状況の変化にも対応できるようにしておくことが重要です。

ステップb:スポンサーシッププランの策定:リーダーの役割と行動を明確にする
スポンサー(経営層)や部門リーダーが、変革プロジェクトの中でどのようなタイミングで、どのような行動を取るべきかを明確にした「スポンサーシッププラン」を策定します。これにより、リーダーたちは自分の役割を認識しやすくなり、実際の行動に移しやすくなります。

「変革に関わってください」ではなく、「○月までにこの場でこのようなメッセージを出してください」と具体的に伝えることがポイントです。
- 変革プロジェクトの重要なマイルストーンを整理し、その時点で必要なリーダーの関与アクション(例:社員向けのメッセージ、部門内説明会、表彰など)を時系列で整理
- アクションの目的、対象、実施タイミング、サポートが必要な点なども合わせて記載
- 定期的に進捗をレビューし、必要に応じて計画を更新
このプランは、DX推進チームが一方的に作るのではなく、リーダー本人と対話しながら一緒に作成することで、納得感と実行力が高まります。

事例
リーダーが変革において言動一致であることの重要性は、多くの成功事例からも明らかです。例えば、サティア・ナデラ氏がマイクロソフトのCEOに就任した際の変革は、その最たる例と言えるでしょう。著書「Hit Refresh」の中で、ナデラ氏はマイクロソフト再興の鍵は「企業文化の刷新」にあると考え、固定観念にとらわれないオープンで成長志向の組織風土の醸成に注力しました。ナデラ氏自身が率先して新しい考え方や働き方を受け入れ、それを言葉と行動で示すことで、社員の意識改革を促し、停滞していたマイクロソフトを再びイノベーションを生み出す企業へと変貌させました。
最後に:変革の火を灯し続けるために
DX推進において、最も強力なエンジンは「本気で関わるリーダー」です。そして、そのエンジンに点火するのが、あなた=DX推進者の働きかけです。
リーダーが一貫した姿勢で変革を支援し続けるために、導入チームは「火をつける」「燃料を補給する」役割を担うことになります。
🔥 リーダーシップ・エンジンが回り続ける限り、組織は必ず前に進みます。
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