The only thing worse than being blind is having sight but no vision
ヘレン・ケラー(アメリカの作家・社会福祉活動家)
盲目であることは悲しいことですが、それ以上に悲しいこともあります。それは目が見えても未来を見る力がないことです
「DXビジョンをどう作ればいいかわからない」 「自部署の小さなデジタル改善プロジェクトにも、ビジョンが必要なのだろうか?」
本記事では、そんなあなたの悩みにお応えします。
大規模なDX戦略だけでなく、デジタルソリューション導入など比較的小さな取り組みにも使える「ビジョンづくり」の考え方と実践方法を、わかりやすくご紹介します。
実例を交えながら、日本企業に合ったアプローチをお届けしますので、ぜひ最後までご覧ください。
なぜ「ビジョン」がDX成功に不可欠なのか
日本企業におけるデジタル変革(DX)は、今後の競争力を左右する重要な鍵となっています。しかし、以前の記事でも触れた通り、日本企業のDX成功率はわずか14%に留まっています。
その最大の要因は、「明確なビジョンの欠如」です。
デジタルトランスフォーメーション(DX)を成功に導くには、まず経営層自身がDXビジョン策定に深く関与しし、アライメント(方向性の一致)とコミットメント(本気度の表明)を示すことが不可欠です。
ここでいうDXビジョンとは、「DXの最終ゴールは何か」「どのような価値をもたらすのか」という共通認識を作ることを指します。DXを航海に例えるなら、ビジョンは暗闇の海を照らす灯台です。
会社によっては「ビジョン」ではなく、「戦略」や「ゴール」と表現する場合もあります。
※経営ビジョンを支えるDXの方向性は、戦略という形で語られることもあります。
先進企業に学ぶ – DXビジョンの具体例
DXビジョンの具体的な構成に入る前に、まずは実際の企業事例を見ていきましょう。
ヤマトホールディングス
「クロネコメンバーズ」や荷物のデータ追跡サービスなどで知られるヤマトは、経営構造改革プラン『YAMATO NEXT100』の中で、デジタル活用を重要な柱と位置づけています。

出所:経営構造改革プラン「YAMATO NEXT100」を策定
中外製薬
中外製薬は、「ヘルスケア産業のトップイノベーター」を目指す中で、デジタル技術を事業の中核に据えています。

出所:中外製薬DX説明会
ユニクロ
ユニクロは、RFIDタグの早期導入によって、レジ待ち不要の購買体験を実現しました。


少し捕捉しますと、ユニクロのDX方針・ビジョンは:
方針:現場から「最も良いやり方」を学び、デジタルでサポート
実現したいこと:
- お客様が欲しい商品が 常に品揃えられている
- お客様が欲しい商品がSKU レベルで欠品なく確実に手に入る
- お客様が欲しい商品が簡単・ 便利・待たずに買える購買体験
優れたDXビジョンとは – 共通点とその力
優れたDXビジョンの共通点
これらの事例から浮かび上がる、優れたDXビジョンの共通点は以下の2点です。
- DXによってどのような企業を目指すのか
- 誰に、どのような新しい価値を提供するのか
ここで重要なのは、具体性と情熱(パッション)の両立です。
たとえば、「DXを通じて顧客体験を向上させます」だけでは抽象的すぎます。
一方で、「第一線がお客様にしっかりと向き合える”全員経営”を復活させる」という表現であれば、社員一人ひとりが自らの役割を具体的にイメージすることができるでしょう。
ビジョンの効果
明確なDXビジョンを策定することで、次のような効果が期待できます。
- 判断の軸になる
- 新たな施策やプロジェクトがビジョンに沿っているかを判断する基準となります。
- 社員のモチベーションを高める
- DX推進の「なぜ(WHY)」が伝わり、共感と主体的な行動を引き出します。※
- 経営層および社内のアラインメントを強化する
- 目指すゴールの共有によって、組織内の連携がスムーズになります。
※「WHY」の重要性については、サイモン・シネック氏のTEDトーク『How Great Leaders Inspire Action』もぜひご覧ください。(日本語字幕あり)
自分も以前みたことがありますが、改めてビジョン作成の際に見ると感じることが増えるはずです。
DXビジョンはどう描くべきか – 実践ステップ
DXビジョンの作り方を考える前に、なぜ多くの企業であいまいなビジョンしか策定できないのか、考えてみましょう。
なぜあいまいなビジョンを作っちゃう?
私の考えでは、主な理由は以下の2つに集約されます。
- IT部門が事業を深く理解していない
- 事業価値に直結するDX提案が難しい。
- 事業部門がデジタルを理解していない
- デジタル技術の可能性を具体的に描けない。
- (例:「データエンジニアとは何をする職種か」という質問がいまだに経営陣から出る)
DXのビジョンを描くためには、ITリーダーと事業リーダーの共創が不可欠です。
たとえばユニクロでは、デジタル部門が各現場に入り込み、業務改善を積み重ねた上で、デジタル化に落とし込んでいます。
実践ステップ
では実際どう実践すべきでしょうか?
- ステップ1:相互理解
ITリーダーと事業リーダーの共創のため、お互いの相互理解を深める必要があります。企業ごとにやり方は異なりますが、必要な取り組みは以下の通りだと考えています:
- 事業部門に対するデジタルリテラシー向上施策
- 講座だけでなく、先進企業訪問・交流機会も設ける。
- IT部門に対する事業理解促進施策
- 製品・サービスに関するオンボーディング、現場ローテーションによる理解深化。
- ステップ2:ビジョン検討・策定
その前提が整えたうえ、一連のワークショップ(対話・検討)を通じて、DXビジョン策定することをお勧めします。
私自身が関わったプロジェクトでも、エグゼクティブ向けにトレンド情報を共有し、ワークショップ形式でビジョン策定を行いました。現場の声を踏まえたうえで未来を描くと、参加者の目が明らかに変わったのを覚えています。
1日目
- DX及び業界トレンドの学び
- 現状把握ディスカッション(事前インタビューあり)
- 未来像の探索・共有
2日目
- 業界別DX事例の学び
- 自社DXの意味・優先領域を検討
- キーワード整理&ビジョン草案作成
(このようなプロセスにより、「共感できるビジョン」を練り上げます)
小さく始めるには
この記事を読んで、「自社や自部署でもDXビジョンを作りたい」と感じた方へ。
まず踏み出せる小さな一歩は、社外からDXトレンドを収集し、現場メンバーから課題をヒアリングして、現状の課題と未来への期待についてディスカッションすることです。
加えて、経産省のDX銘柄などを参考に、他社事例を集めることも有効です。
また、デジタルソリューションの導入を検討している場合でも、
- 「なぜこのソリューションが必要なのか」
- 「どの課題を解決できるのか」
- 「どんな付加価値を生み出せるのか」
といった観点から、重要なステークホルダーへのインタビューを通じて情報を集めましょう。
その上で、プロジェクトメンバーを巻き込みながら「導入後にどんな未来を実現したいか」というゴールを策定することが、成功へのカギとなります。
まとめ – ビジョンはDX成功の礎
DXのスタート段階において、事業とITの相互理解を深め、明確なビジョンを策定する。
これこそが、DX成功への最も堅固な土台となります。
しかし、ビジョンを作っただけでは、DXは進みません。
ビジョンを社内に浸透させ、現場の行動を変え、実際に成果に結びつけていくためには、さらに工夫が必要です。
そこで次回は、DX Change Labが独自に開発した【DX推進を加速させるための7ステップモデル】をご紹介します!
これからDXに取り組む企業にとって、”現実的に使える”アプローチをわかりやすくお届けしますので、ぜひ楽しみにしていてください!
著者: Hiro|DX Change Lab
元人事・経営コンサルタント。現在は事業会社でチェンジマネジメントを担当し、DX推進を支援。現場目線で、DXの壁をシンプルに乗り越える実践ノウハウを発信しています。
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